はじめに
尾上右近さんと尾上眞秀くんは、現代歌舞伎界を担う若き才能として注目を集めています。一見すると年齢も出自も異なる二人ですが、実は音羽屋に連なる血縁関係があり、共演を通して強い信頼関係を築いてきました。
本記事では、二人の舞台での関係性と、家系図をもとにした血縁関係、さらには“男系直系”ではない出自から歌舞伎の世界に飛び込んだ背景まで、じっくり解説します。母系から継がれる想いと努力で舞台に立つ彼らの姿は、伝統芸能の未来を考えるうえでも重要な象徴です。
尾上右近と尾上眞秀の関係とは?
同じ音羽屋で戦う“舞台の仲間”
歌舞伎界で注目されている若手の二人、尾上右近さんと尾上眞秀くんは、近年さまざまな舞台で共演しながら、互いに強い信頼関係を築いてきました。特に自主公演「研の會」では、右近さんが眞秀さんを「同じ音羽屋で戦っている大切な仲間」と表現しています。血縁だけでなく、舞台をともにする同志としての絆が深まっています。
親獅子と仔獅子—『連獅子』での共演
歌舞伎の名作『連獅子』では、尾上右近さんが「親獅子」、眞秀くんが「仔獅子」を演じるなど、親子役での共演も実現。右近さんは自身もかつて仔獅子を経験しており、その経験を踏まえて「自分の仔獅子は眞秀くんしかいない」と語るほど、演技面でも強い信頼を寄せています。
気持ちで舞う—共鳴する演技力
舞台での呼吸の合わせ方や心情表現においても、二人の相性の良さは観客にも伝わるほどです。とくに“親と子の情”をテーマにした演目では、年齢差を超えて感情的に通じ合う部分があり、まさに「気持ちで踊る」役者同士といえるでしょう。
血縁関係と家系図で見る尾上右近と眞秀のルーツ
尾上宗家の家系を整理して、右近さんと眞秀くんの関係が分かる家系図にしました。
これを見ると2人は同じ血統にある遠戚とわかります。特に特徴的なのは、2人とも男系の後継者でなく、女系の血筋から歌舞伎の世界に入っていることです。

曽祖父・祖父・両親—名家の血脈
尾上右近さんの家系は、歌舞伎音楽・清元節宗家の出身です。父は7代目・清元延寿太夫(高輪派家元)、祖父は6代目・清元延寿太夫。そして、祖母は6代目・尾上菊五郎の次女にあたります。つまり右近さんは、音羽屋の名跡・菊五郎家に母方からつながる人物なのです。
尾上家の血統をたどると、江戸時代から続く歌舞伎界の名門「音羽屋」に行き着きます。祖母多喜子さんは、昭和の名優・6代目尾上菊五郎の娘であり、右近さんはこの菊五郎家の女系の曽孫にあたります。母方からの名門血統を持ちながらも、父は歌舞伎俳優ではないという点が、右近さんの出自を際立たせています。
寺島しのぶさんと「はとこ」関係
寺島しのぶさんは、尾上右近さんの「はとこ」にあたります。しのぶさんの父は7代目・尾上菊五郎、母は元宝塚女優の富司純子さんという芸能一家に育ちました。
右近さんの祖母は6代目菊五郎の娘であり、7代目菊五郎の娘であるしのぶさんとは「はとこ」の関係になります。一般家庭における親戚関係で言えば少し遠い関係ですが、歌舞伎という狭く深い世界では、こうした関係性も非常に意味を持つものです。実際にテレビ番組で共演した際も、二人は親しげな様子を見せ、血縁としてのつながりを視聴者に披露しました。
尾上眞秀くんは「従甥(じゅうせい)」
しのぶさんの長男である眞秀くんは、右近さんから見ると「従甥(じゅうせい)」にあたります。従甥とは、自分の「はとこ」の子どもを指す言葉で、現代ではあまり馴染みがありませんが、家系図上ではれっきとした親戚です。
眞秀くんは、祖父に7代目尾上菊五郎、母に寺島しのぶという華やかな芸能一家に育ちながら、父はフランス人演出家という国際的な家庭に生まれました。このように右近さんと眞秀くんは、母系で音羽屋に連なる「血縁の輪」で結ばれています。舞台での共演だけでなく、家系としてのつながりも深く、右近さんにとって眞秀くんは「家族であり同志」であるといえる存在です。
また、母・寺島しのぶさん自身は女優として活躍しながらも、歌舞伎界の家に生まれながら女性であるという理由で歌舞伎役者にはなれなかったという背景があります。その悔しさと想いを継ぐ形で、息子・眞秀くんに歌舞伎の道を託したのです。しのぶさんは、眞秀くんの稽古に日々付き添いながら、その成長を心から応援しており、「自分の中にある“歌舞伎への夢”を、息子が生きてくれているように感じる」と語っています。
こうした強い母の想いと家系の誇りを背負って舞台に立つ眞秀くんは、単なる歌舞伎俳優の卵ではなく、伝統と情熱の結晶のような存在だと言えるでしょう。
女系から舞台に立つ“新しい歌舞伎役者”
女系出自で歌舞伎を大舞台へ切り開いた稀有な存在
歌舞伎界では、父から子へ名跡を継ぐ「男系継承」が当然視されてきました。そのため、母方の血筋から歌舞伎と縁を持つ“女系出自”の人物が、役者として舞台に立ち、大成することは非常に珍しいことです。有力な歌舞伎役者に跡取りがいない場合に、女系の親族から養子になり有力な名跡を継ぐことはときどき見られます。尾上右近さんは現在のところ有力な歌舞伎役者の養子ではありません。
尾上右近さんは、まさに女系出自で活躍している稀有な存在です。祖母は6代目尾上菊五郎の次女であるものの、父は歌舞伎俳優ではなく清元節宗家の家元。つまり、右近さんは歌舞伎の名跡を継ぐ立場にはなく、自らの意志と努力によって歌舞伎の舞台に立つようになったのです。
現在の歌舞伎界を見渡しても、右近さんのように「女系から歌舞伎役者として頭角を現した人物」は珍しい存在です。他の伝統芸能、たとえば能楽や狂言の世界では女性の継承者が活躍することもありますが、歌舞伎においては今なお女性が舞台に立つことは認められておらず、その影響で女系の後継者が歌舞伎役者になるルートは非常に限られています。
そのなかで尾上右近さんが注目を集め、着実に地位を築いてきたのは、まさに本人の資質と不断の精進によるものです。このような背景を持つ右近さんは、従来の「血統主義」の歌舞伎界に新たな風を吹き込む存在であり、若手役者の中でも異彩を放っています。
男系継承が中心の歌舞伎界
歌舞伎界においては、父親から子へと名跡を継ぐ「男系継承」が伝統とされています。このため、父親が歌舞伎役者でない者は“傍系”とされ、役者として名跡を継ぐには大きな壁があります。
部屋子でも直系でもない出自
尾上右近さんも眞秀くんも、父親は歌舞伎役者ではありません。右近さんの父は清元節の家元であり、眞秀くんの父はフランス人の演出家。つまり、どちらも歌舞伎に縁のない家庭から弟子入りした「部屋子」ではないものの、「男系の直系」でなく有力な名跡の跡取りでない出自から、舞台に立っているのです。
才能と努力で切り開いた役者人生
こうした不利な出自にもかかわらず、右近さんは歌唱力・踊り・芝居の三拍子を備えた才能を持ち、若手の代表として頭角を現しました。眞秀くんもまた幼くして舞台に立ち、その度胸と演技力が高く評価されています。
特に尾上右近さんは、男系の後継者ではなく、母方の血筋から歌舞伎界とつながっている“女系”の存在です。そのため、生まれたときから名跡を継ぐ立場にあったわけではなく、自らの強い意志で歌舞伎の世界に飛び込み、一から修行を積んで現在の地位を築いてきました。自身の芸を磨き、清元の家元としての活動も両立させながら、二つの伝統芸能の継承者として奮闘している点も大きな特徴です。
新しい継承の形としての存在意義
彼らの存在は、「血統主義」に偏りがちな歌舞伎界にとって、新しい時代の象徴とも言えます。才能・熱意・努力によって道を切り拓いた彼らは、伝統と革新の架け橋として、今後さらに注目されることでしょう。
自主公演「研の會」の背景と家族愛
親と子の絆をテーマに
尾上右近さんが主宰する自主公演「研の會」では、テーマに“親と子の情”を掲げ、演目にもその要素が多く込められています。『連獅子』での共演はまさにその象徴ともいえるシーンで、観客に強い印象を残しました。
大阪・東京での上演と注目ポイント
この公演は大阪と東京の両都市で開催され、連日満席の盛況ぶりを見せました。眞秀くんにとっても大きな飛躍の場となり、右近さんにとっても「彼にしかできない仔獅子」と称賛を惜しまない公演となりました。
共演後の反響と今後の展望
観客の拍手と舞台評価
『連獅子』の舞台では、終演後に拍手が鳴り止まないほどの反響がありました。眞秀くんの堂々たる姿と右近さんの迫力ある舞が観客の心をつかんだのです。
今後も注目の共演に期待
この2人の共演は今後も増えていくと予想されており、「音菊曽我彩」などの次回演目での再タッグも期待されています。音羽屋の未来を担う2人の軌跡は、今後も歌舞伎界に新たな風を吹き込んでいくでしょう。
まとめ
尾上右近さんと尾上眞秀くんは、伝統と格式に満ちた歌舞伎の世界において、母系の血筋から舞台に立つ“新たな継承者”として注目されています。彼らは名跡の直系ではない出自から、自らの努力と才能で歌舞伎界の舞台に立ちました。その背景には、家系の誇りと家族の支え、そして「歌舞伎の魂を絶やさない」という強い意志があります。
とりわけ寺島しのぶさんが、自らの夢を託して息子・眞秀くんを支える姿は、現代における歌舞伎の継承の在り方に一石を投じています。尾上右近さんとの共演は、単なる若手俳優の共演にとどまらず、伝統芸能の未来を切り拓く象徴的な出来事といえるでしょう。
これからも二人の舞台での歩みが、歌舞伎界にどのような変化をもたらすのか、その姿を見守りたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。